2016年11月27日日曜日

文明と病気 上 シゲリスト 8

ソビエトの実験の話は面白いです。


前回
その7


◆雇主の責任と労働者の保障に関する法律制定の歴史は、それがその時代の政治的及び社会的歴史を反映している。
◆最初制定された法律はみな雇い主に味方し、労働者は自分に加えられた損害に対しほとんど補償を受ける機会がなかった。

◆イギリスは1846年まで、アメリカは合衆国はその後間でも実施された規則で、死亡災害に遭った労働者の家族は雇主に何も要求することができなかった。被害者が死んでしまえばその事件もまた落着したというのがその解釈であった。鉄道の発達で新しい時代が生まれた。事故が頻発し、初めてベルリンとポツダム間に鉄道線路が開かれた1838年において既にプロシアは事故に対して鉄道会社に責任を負わせた。
◆古い責任法はみなどこにもある危険あるいは自分自身の不注意に基因する傷害に対して労働者を守ってくれないし、ふつう労働者はそんな手続きをする余裕はなかったが、法定に告訴した時だけそのものに損害を認めるという重大な欠点を持っていた。

◆ビスマークの社会立法とともにドイツはこの分野において先駆的な仕事をした。1883年における疾病保険法は、負傷と病気の場合13週間作業能力を喪失した賃金生活者に対し医療と現金扶助料を保証した。
◆1884年に産業災害保険法は強制保険の方式を確立し、その基金により従業員は職業性の危険に基づくあらゆる障害に対して保証されるようになった。

◆産業労働がどんなに危険であるのか、今なお毎年なんと重い生命の犠牲を払っているかを多くの人々ははっきりと認めていない。
◆アメリカ合衆国労働省の1939年の公式報告に拠れば、この年に1万8千人の労働者が死亡し、10万6千人が永久的な廃疾障害を受け、140万7千人が一時的に全くの廃疾となった。

◆法律の上で医師きめる今日の医師免許制度は中世に始まった。それはノルマン王ロジェールまで遡る。
◆国は医術の実施に責任を負い、医師の無知と無能力による危険から民衆を守った。こうして1つの型形ができて西欧側では今日に至るまで多かれ少なかれきっちりと守られた。
◆社会は医師の権力の濫用から多くのやり方で法律的に守られている。医師の診察を受ける患者は、その不注意に由来する損害に対して医師を告訴することができるという契約をする。医師が診療過誤に保険をかけるのはこれがためである。他方医師は料金の支払いにつき契約の相手として患者を告訴することができる

◆妊娠が母親の生命に直接の脅威とならない限り、法律は成長する生命を保護し、堕胎を禁じている。これはキリスト教の遺産である。ヒポクラテスの誓いにおいて述べられているにもかかわらず、古代においてはしばしば堕胎は行われていた。銀行調節の手段としてプラトンのような哲学者さえそれを進めていた。
◆堕胎の問題は重大である。ヒトラー以前のドイツでは毎年結核よりも堕胎後の敗血症によって多くの女子が生命を失ったものと推定されていた。困窮のあるところ、避妊用具を容易に入手できず、不義の出生に汚名が着せられる所ではどこでも堕胎がいつも内密に行われているであろう。
◆ソビエトの実験から学ぶことができる点は
(1)男にしろ女にしろその成員全部に仕事を保証し
(2)無料で母親と子供の世話をする医学的及び社会的施設を用意し
(3)大家族に適当な経済援助を与え
(4)求めるもの全部に行人の助言を与え
(5)不義の出産に汚名をきせない社会では、堕胎は不要であり、そして何か医学上の必要条件がなければ健康に有害として堕胎を間違いなく禁止できるということである。このような条件を実現できない社会は、多くの秘密の堕胎と多くの災難とを勘定に入れなければならない。このような場合には堕胎を公認しても、それはささやかな悪であろう。

◆いまなお多くの議論されている別の法医学上の問題は優生学の理由による断種の問題である。昔なら生存競争で負けてしまったであろうに、医学及び社会の処置が進み、種族に悪影響をおよぼす数十万の人が命拾いをした。
◆その一方では最上の身体的素質を有する幾百万の若い人々は周期的に戦争で全滅させられてしまった。このことは逆淘汰に等しいことで、その結果人類の退歩を来たすに違いない。
◆1930年教皇の大教書「貞潔な結婚」の中に最も強い告示が見られ、どんな断種に対してもカトリック教会は非常に激しい反対の立場をとってきた。したがって法律は主として新教の国々それにヨーロッパではまずスイスのボー州で1920年に制定された。
◆アメリカ合衆国では既に1907年にインディアナ州が男子法を制定した。1921年には意見と先せられたが、1927年と1931年に新しい法律が通過した。他の州でも情勢は同じであって、問題は1926年に最高裁判所にもちこまれた。裁判長オリバー・ウェンデル・ホームズの意見は非常に注目すべきものであった
◆この判決によりバージニア州の断種法合憲とされ、今日28の州がこうした法律を持っている。

◆ナチス政府によって最後に1933年に制定された法律は、30年にわたる精神医学と遺伝学の研究に基づいていた。その準備作業はヒトラーが政権を取る前に完成し、したがって多分法律はともかく早晩通過したことであろう。しかしナチス自身はその保健人口計画のはっきりと承認された基礎であった民族理論にそれを合わせた。
◆ナチス政権の所初年において25万人以上のものが断種され、多分動かすべからざる科学的証拠よりも政治上の理由から、この法律の適用を受けた人の数は60万を越したものと推定されている。
◆優生学上の断種をただ単にナチスのイデオロギーと同一とみなし、我々が現在のドイツの政体とそのやり方を好まないからといって、この問題を取り上げないのは大変な間違いであると私は思う。

◆自分が知っていることが分からずに多くのものが盗み、あるいは殺し、あるいはその他の罪を犯していることが今日の医学ではわかっている。こういう連中の心は病気の結果かき乱され、罪を犯している時正邪の区別をすることができない。
◆法律は常に平均人、正邪を弁別できる精神の健全な者に対して作られていた。精神が健全でない者は社会の外にいて、したがって法律の外であることがずいぶん前に決められた。法律の見地からすれば、人間は正気の者と気の狂った者、自分の行為にたいして責任を負う者と責任を負わぬ者の2群に分けられた。

やっかいなことに医学はいつも少なくとも半世紀は法律に先んじていた。法律というものは先頭に立って導くものではなくて後に続くものであるから、それは全く当然のことである。医学上の発見はまず医学の職業人によって認められなければならない。それから社会一般の承認を得なければならず、最後に国の法律の中に包含される。したがって法律の改正手続きは非常に緩慢である。
◆法廷において証言するよう喚問された精神科医は、専門家であれば現在の精神医学の知識に従って自分の証言をするが、一方法廷は二昔も前の言葉で考え、行動している。その結果明らかに病気である人間が死刑を宣告され、自分に何が起こっているのか知らないで死刑が執行された。
◆他方精神科医の意見では、社会に対する重大な脅威である精神の病人が、その状態が狂気という法律上の定義に合致しないという理由から病院に収容されないことがしばしばある。現実に罪を犯すまでは自由に行動することが彼らに許されている。
◆証言に喚問される専門家は真の専門家であるばかりではなく、法律上の問題に経験を有する修業を積んだ精神科医であるべきことは確かである。その上それらのものは中立であり、それを確実にするため彼らは法廷によって任命さるべきであり、関係当事者の一方によって任命されるべきではない。



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